2018/03/25
『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』を20年来の吃音者がリアルに批評してみる
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こんにちは、月也です。
近頃、吃音を題材にしたメディアが増えてきていますよね。
下記の記事でも言及してるんですけど、
最近有名なのは、
『英国王のスピーチ』
『ラヴソング』
辺りですよね。
そして、漫画作品として
吃音を題材として描かれているのが、
『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』
この作品も有名だと思うので
知っている方も多いと思います。
特に吃音持ちの人であれば、
既に読んだという人もいるかもしれません。
正直僕はこれまで、
名前こそ知ってはいたんですが
読んだことが無かったんです。
『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』を。
若干怖いというのもあったんですよね。
昔のあの辛かった時期を思い出してしまうんじゃないか、
みたいに。
ただ、吃音者でない人にもかなり評判が良かったし、
吃音持ちとしてはやっぱり読まないわけにはいかないだろう、
ということで読んでみることにしました。
20年来吃音を患ってきた人間から見た
『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』
はどう映るのか、
書いていきたいと思います
これ、俺だ・・・
それでまず、一通り読んだ感想としては、
(これ、俺だ・・・)
主人公、志乃ちゃんの一挙手一投足が、
まさに自分の高校時代と重なって、
何とも言えない気持ちになりました。
あまりに自分自身と志乃ちゃんがシンクロしすぎて、
正直吐きそうになりましたよね(笑)
漫画はまず、志乃ちゃんが高校入学時の
クラスでの自己紹介を練習する場面から描かれます。
自己紹介は、吃音者にとって
最もキツイ場面の一つではないでしょうか。
言い換えの利かない「名前」を絶対に言わないといけないし、
みんなの視線がこちらに集中して
とにかくプレッシャーがかかる。
さらにこちらのことを知っている人はほとんどいないわけで、
“普通の人”としてこちらのことを見てくるわけです。
(そこでもし、吃音者ということがばれてしまったら・・・)
という心理的摩擦は、
強烈な恐怖心として襲い掛かってきます。
逃げられるものなら全力で逃げたい場面ですね。
僕は自己紹介とかスピーチがあるとなると、
1か月以上前からその日が不安で不安で
しょうがありませんでした。
「その日を無事に乗り越えることが出来るんだろうか?」
と、まさに死地に向かう兵隊のような心持ちでした。
生きた心地がまったくしなかった。
でも大抵は、意外となんとか乗り越えられるんですけどね。
そして、この場面で唯一、
僕と志乃ちゃんで大きく異なる部分があります。
「独り言が言えるか、言えないか」
です。
吃音者は独り言なら言えるという人が多いですが、
中には僕のように独り言すらどもってまともに言えない、
という人もいます。
僕は自己紹介の練習をすることすら、
当時はできませんでした。
あなたがもし独り言すら言えないんだとしても、
安心してもらいたいのは同じ人は世の中にいるし、
症状は絶対緩和させることが出来るという事実です。
実際僕は今は、独り言はスラスラ言えるようになったし、
会話もできるようにはなっているので。
そしてその次辺りのページでは、
志乃ちゃんがクラスで自己紹介をしているシーンが描かれます。
正直、このシーンは読んでいてとてつもなく辛かった。
自分の順番が回ってくるまでの強烈な不安や緊張感、
自分の番が来た時のどうしようもない絶望感。
そして案の定どもって自分の名前が言えずに、
突き刺さる周囲の視線。
本当に、あまりにも辛いです。
ただ僕が志乃ちゃんを偉いなと感じたのは、
「ちゃんと自分の名前を言おうとしているところ」
です。
どもりながらも、一生懸命自分の名前を伝えようとしている。
そんなことは僕にはとてもできなかった。
自己紹介をすること自体を放棄していた気がします。
仮にどもったとしても、
伝えようとするその姿勢は周りに必ず伝わって、
応援してくれる人も絶対に現れる。
今ではそのように思えるんですけどね。
あとこの場面で思わず唸ったのは、
「ちがうんです」などはスラッと言えている、
という部分です。
吃音者は”自分の言いたいこと”を話そうとするときに
どもってしまいます。
でも「ちがうんです」や「すいません」は、
言葉ではなくて、吃音者にとっては”音”なんですよね。
その描写がすごい細かいなって感じました。
吃音を経験してないと、
絶対理解できない、描けない部分だと思います。
入学してからしばらくして、
志乃ちゃんに友達ができるわけですが、
その友達と初めて一緒に帰るシーン。
個人的にこのシーンは、
本当に考えさせられるなと思います。
話したいことは山ほどあるんだけど、
でも話したらどもってしまって引かれて、
友達が離れて行ってしまうかもしれない。
でも、友達と一緒にいられるだけでうれしい。
吃音者には色んな感情が入り混じる場面かなと。
僕はこのような場面が当時、
怖くて怖くて仕方ありませんでした。
人と2人きりになるということは、
何かしら話をしなければいけない。
でも俺は言葉を発することができないし、
仮に発せられても奇怪な音しか出せなくて
せっかくできた友達が去って行ってしまうんじゃないか。
そして俺なんかと一緒にいても、
会話が続かなくて楽しくないんじゃないか。
俺なんかよりも、こいつにふさわしい友達はいるんじゃないか。
そのように考えてしまって、
人と二人きりになるという状況が
恐ろしくてたまらなかった。
そのような状況になるのを、
防衛本能が全力で逃れようとしているようでした。
それが災いして対人恐怖症も患ってしまったんですが、
当時志乃ちゃんのような考えができていれば、
そこまで辛い思いをすることは無かったかもしれない。
別に無理に話さなくても良いんですよね。
コミュニケーションは、言葉が全てではない。
人と共有する時間こそが大切なんだと、
そんなことを改めて気づかせてくれるシーンです。
そう思えるだけでも、
吃音への恐怖って薄れていきますね。
その初めてできた友達と仲良くなって、
その子の部屋で遊んでいるシーン。
そうなんですよね。
その人と打ち解けてくると、
どもりって出なくなるものなんです。
「この人なら、別にどもっても受け入れてくれる」
そう思えるようになるからだと、
僕は感じているんですけどね。
物語は進んで、
別の男子生徒が二人と仲良くなり、
3人で下校するシーン。
ここもまた昔の自分を思い返して、
胸に来るものがありました。
友達2人は非吃音者で、スラスラ話すことが出来る。
でも自分はスムーズに言葉を話せられないし、
そもそもしゃべろうとしても発声すらできない。
無理に入ろうとしたら、
その場の話の腰を折ってしまうんじゃないか。
自分が話に割り込んだところで、
その後も話し続けることが出来るわけがない。
吃音者が感じる”疎外感”は、
非吃音者には絶対に分からないのかもしれません。
「お前、なんで話さないの?もっと話せよ笑」
これは実際に僕自身が高校時代、
よく友達から言われていたセリフなんですが、
これほど残酷な言葉というのもありません。
(話したいけど、どうしても話せないんだよ・・・・・!!!)
どこに向ければいいのかわからない怒りに、
心が押しつぶされそうになっていました。
その時の僕の感情と重なり合って、
思わず当時を鮮明に思い出しましたよね。
本当に、この漫画はすごいです。
経緯は端折るんですが、
こちらは志乃ちゃんが文化祭で
独白を行うシーン。
この志乃ちゃんの言葉が、
僕の人生そのものを表現してくれてるなって感じましたよね。
僕も志乃ちゃんと同じで、
話すことから逃げてばかりいました。
戦おうとすらせずに、
ただただ逃げていた。
「変な人間」に思われるのが怖くてたまらなかった。
話さなければ、
ただの「無口なやつ」と思われるだけで済む。
だから、話さなかった。
そうしているうちに、
話さないことが当たり前になっている自分がいました。
家族とすら言葉を交わせなくなり、
社交性を完全に失って、
どんどん内に籠っていってしまいました。
その先に待っていたのは、
「虚無感」だけでした。
自分の存在意義がわからなくなり、
早くこの世から消え去りたいと心から願っていました。
今ならわかるんですが、
話すことから逃げる必要なんてないんですよね。
多少どもっても良い。
話すこと、人と接することから
逃げる必要なんてそもそもないんです。
バカになんてされなくて、
絶対に、受け入れてくれる人っているんで。
意外と、世の中温かいですよね、ホント。
吃音を通して、僕は
世の中の温かさを感じ取れたかもしれません。
とにかく、自分と重なる部分が多すぎた
『志乃ちゃんは自分の名前を言えない』
を読んでみて、
本当に自分と重なる部分がありすぎました。
だからこそ、
この作品を読むことで救われる人もいるんじゃないかなって思います。
「自分と同じ苦労をしている人って、世の中にいるんだな」と。
僕が一番吃音が重かった高校時代に、
この漫画に出会えていたらどれほど救われていたことか。
何もかもを吃音のせいにして、
当時は人生を諦めていたので。
もっと早くそこから抜け出せていたんじゃないかなって思います。
漫画のあとがきがまた良い
またこの漫画のあとがきに
作者の押見修造さんのコメントが綴られているんですけど、
「単なる吃音漫画にしたくなかった」
ということが言われています。
正直この漫画は吃音者のみならず、
今何かしらの悩みを抱えている人全員に
読んでもらいたい作品です。
作中に吃音以外の悩みを抱えている登場人物が出てくるのですが、
その悩みを乗り越えようとする様を見た時に
感じられるものが必ずあると思うので。
もちろん、吃音者にはぜひとも読んでもらいたいんですけどね。
志乃ちゃんは自分の名前が言えない
かなり考えさせられました。
作者の押見修造さんは吃音者ということもあって、
とにかく描写が細かかった。
定期的に読み返したいなって思える作品ですね。
まだ読んでないよ!という人は、
ぜひ今すぐにでも読んでみてください。
手放しでオススメできる漫画です。
ありがとうございました!
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